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シラノの翻訳をめぐって

ショップからコラムニストとして選ばれたフランス文学大好きオネエITARUです!
みなさま今後ともどうぞ宜しくお願いします!

goldieでおなじみのデザイナーを交えてのパーティーでいつも見る光景。
よどみのない流暢な英語でデザイナーとお客様をネゴシエーションするスタッフはなくてはならない存在。
英語が苦手な私はいつも感心するばかり。
通訳は限られた短い時間の中でいかに的確な言葉を選び出すかが勝負。その瞬発力を求められる点ではいわば「体育会系」かもしれません。見た目も発想も体育会系な世界とは程遠い自分。語学の世界でも同じで縁遠いのが通訳という仕事。

一方で翻訳という「文化系」なものには少しだけ関心があったりします。翻訳はただ単に辞書を引いて「縦のものを横にする」といった肉体労働ではなく、文字という記号の森の中でいかに推理力、洞察力を働かせるかが勝負。
つまりいろいろ調べるから時間も潤沢に使えて解釈をめぐって寄り道ができる楽しみがあったりします。

セルジュ トラヴァルの「接吻」というタイトルのリングがあるのですが、
これはエドモン・ロンスタンの『シラノ・ド・ベルジェラック』の一節から引用されています。
先月はクリスマスという大きなイベントがあったこともあり、お店にある訳詩と
最近光文社から出版された渡辺守章先生の翻訳を読みくらべてみました。

3-h1

(お店の訳詩)

あらゆる点から考えて接吻とは何だろう

すこし近いところでする誓い

より確かな約束

互いに確かめ合う告白

「愛する」という言葉をあらゆる細かいニュアンスで表現するバラ色の瞬間(とき)

……………………………………………………………………………………………………………..

(渡辺守章先生訳)

接吻とはそもそも、なんでしょうか。

顔と顔を近づけてする誓い、しっかり残る

約束の印、変わることはないぞと、互いの舌が確かめる、

愛するという動詞を染める、あの薔薇の色。

たとえばUne promesse plus preise 直訳で(近いところの約束) は欧米でよくある頬と頬をくっつけるフレンチキスなのだな、とは解るのですが、問題はその次。

Un avue qui veut se confirmer
直訳で (互いを確かめ合う誓い) が「互いの舌が確かめ合る」と解釈されている点。 「舌」単語がないのに、いつのまにかディープキスになっています。決して「舌」という単語はなくともそこにシラノの深い愛情を訳者はみたのです。ただ文字を追っていただけでは決してできない解釈です。
解釈の優劣よりも、古典作品の解釈が180度も転回できること。もちろん渡辺先生の卓越した解釈の技術もさることながら、現代訳の変化に容れられるほどの度量や奥行きや強度が、『シラノ・ド・ベルジェラック』にはあります。古典とは無数の再読と再解釈によって生き延びて来たサバイバルの勝者ともいえます。
また、ブログをみたお客様が来店しこの「解釈」に感動し購入に御来店になった事実もこの古典のもつ懐の深さを感じます。 またアクセサリーが人の心に溶け込む本来の「そうあるべき姿」を垣間見ました。

デザイナーがデザインについて気を配るのはあたりまえですが、
「ことば」もたいせつにするアクセサリーデザイナーは希少ではないでしょうか。

by ITARU

戒田格
2011年アッシュ・ペー・フランス入社。
以来クイーンズイースト、横浜タカシマヤ勤務という横浜店育ちの癒し系(?)おねえキャラ。渋谷109のギャルショップにて10年勤務。学習院仏文出身という絶妙な経験も活かし、文学とファッションをからめたブログを徒然なるままに書いております。(ネコ好き)

kaida