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「忘れる」ということ

販売職という身でありながら恥を忍んで告白すると、私は初めての人の顔や名前を記憶するのが非常に苦手です。

先ほどまで話していた方の顔をもう10分後にはぼんやりとしか覚えていないという、まさに頭の中の消しゴムが自動的の作動してしまうのです。(今のご時勢、個人情報保護法の上では良いことだとおもうのですが・・)

 

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しかし不思議なことにその初見者のバッグ、他店のショッパー、香水の種類、服装、スカート丈(60丈、70丈、90丈)、そして会話の内容は克明に記憶をしていたりします。

そんな接客の中でよくある言葉があります。

「この商品を買うのは今一度考えさせてください」「よその商品を見てから考えます」「まだ来たばっかりなので・・」 などなど。

そうなると、とりあえず接客した商品の品番を名刺に記してお客様にお渡しして、お客様も私も今ここでの解決をいったん断念します。こうしてお客様の「応え」を待つことになります。

自分の意のままにならないもの、自分の力ではどうにもならないもの、いたずらに動くことなくただそこにじっとしているしかないもの。接客の中でそうしたものに触れてしまうことは多々あります。

そうした中でお客様が戻ってくるという「期待」を込め直します。しかしその待ちあぐねた期待も時間の経過とともに「忘却」の彼方へ消え去ります。

そもそも「待つ」という行為は、待つことの心もとなさや、甲斐のないもの。人間はそれを忘れることでまた新たに「待つ」ことを期待に寄せることができるともいえます。

「期待しないで待っていよう」という言葉があります。

そこには偶然で想定外の働きに期待することが含まれています。実際にそうした忘れたときにお客様がふらりと戻っていらっしゃることがあります。

忘れてはならないことは沢山ありますが、忘れないほうがよいこと、忘れてもよいことも案外あることに気付かされるこの頃です。

 

 

コラム  戒田格(かいだ いたる)

 

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2011年アッシュ・ペー・フランス入社。 横浜タカシマヤのgoldieにて勤務。横浜店7年目絶賛突入中~。学習院大学仏文学修士修了。日本フランス語フランス文学会会員。

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